空の境界10周年メモリアル上映会に行ってきたのでその紹介になります。
今回は式の人生においての大きな分岐点が描かれています。
第一章「俯瞰風景」に繋がる物語となっています。
第四章「伽藍の洞」
1998年6月
第二章「殺人考察(前)」から数時間、両義式は救急車に運ばれ昏睡状態に陥っていた。
黒桐幹也は刑事であり従兄「秋巳大輔」の車中にいた。
事件は少し前、血が噴き出す死体のそばにたたずむ式を発見した幹也恐らく警察に電話したのであろう。
しかし、それと相反する式の昏睡状態。
幹也は大輔に「犯人を見ていない」そう繰り返すばかり。
幹也は驚きもしたが、冷静になってみて一つ確実に言えることがあった。
それは仮に式が容疑者だと仮定しても「実際に式が殺人を行う現場を見ていない」ことである。
それが唯一の幹也なりのアリバイでもあった。
一体彼らの間に何があったのか。
式の着物は死体から浴びた血で真っ赤に染めあがっていた。
実際に映像だと分かりにくく、第二章「殺人考察(前)」での幹也が最初に式を竹林で発見した時は薄緑色の着物を身に着けていたことがわかります。
恐らく血を浴びたことで着物の色が変わったのでしょう。
細かい演出、活字の表現が含まれており画面の細部にまで行き届いていて見ごたえがあります。
昏睡状態にあった式。
脳の手術を行ったのに髪が生えてますね。まあビジュアル的にね。女の子をハゲにするわけにはいかないですね。
頭巾の下は落ち武者状態かもしれませんが!
一方で式のもう一つの人格「織」は夢の中にいた。
それは境界線から沈んでいく。どこまでもどこまでの深い闇の中に落ちていく。
どうしようもなく前にも進めず深く深く。
あの境界線は生と死の狭間だったのだろう。
織は悟る「これが死か」と。
そうして織は死んだ。
死の世界を表現するのは難しい。この作品、ufotableの死の解釈は落ちていくイメージだ。
見た目は落ちていくイメージだが下でもなく上でもない。
この表現からは正直何も分からない。分からないが孤独を感じる。
織の死は式にとっても孤独なことだという表現に感じた。
そうして式は目覚める。
昏睡状態から奇跡的に目覚めた式は病室に飾られた花に何やら濁った線を見る。
式は恐る恐るその線に触れてみると何か花に触れている感覚とは別の感触を感じた。
式は花に刻まれた線をそっとなぞってみる。
次の瞬間!花は朽ち果ててしまう。
目覚めたことに気が付いた看護師が担当医を呼び出し検診をする。
式を取り囲む担当医、看護師にもその濁った線に見えたものは…
「ものに刻まれる濁った線とその線が切り刻めるイメージ」である。
式はその昏睡状態明けのパニック状態とそのタイミングで見せられた映像に動揺する。
一時的な昏睡明けの目まいのようなものではなく度々その線は式の目の前に現れた。
目の前に見えているものは見えているだけではなく、物体そのものに影響を与えてしまう。
「殺してしまう」そう思ったのか式は目を傷つける自称行為を行ってしまう。
幸い失明には至らなかったが精神面でも不安定、尚且つ深夜には目が見えないながらも自分の周りを取り囲む何かを感じていて内心穏やかではなかった。
このように活字に頼り切った表現の制限が解き放たれる発見が本作にはある。
ここまで視聴者が空の境界という難解な作品、難解な心理描写を共有できるとは思ってもみなかった。
地味なシーンであるがとても丁寧に表情が見えるからこそ、難解でも訴えるものが映像の中にある。
そんなある日、言語療法士を名乗る女性が式の元を訪れる。
彼女の名前は「蒼崎燈子」。燈子は幹也が務める「伽藍の堂」の所長を務める。
そのためすでに幹也とは面識があり彼に話しを聞いたのだろう。
今回の章は「伽藍の洞」と洞の字が違うがぽっかりと開いた心の状態を表しているのだろう。
式は失語症であると医師に診断され、そのカウンセリングという名目で訪れたのだ。
そう、これが式と燈子の初めての出会いである。
式は失語症でも何でもなく自分が抱えている原因を普通の人に話せるわけがなかったのだ。
式で失語症なら根暗な私も失語症なのか?ほとんど人と話さないので急に声を出すと声が裏返る。
個人的には作品として声優の演技は素晴らしいのだが起き抜けの病院は私のように急に話し出すと声も出ないのでそこが苦しいそうだと入院生活の壮絶さが出たような気がする。
全シリーズでそうだが蒼崎燈子役の本田貴子さんの演技が素晴らしい。
蒼崎燈子は眼鏡をかけていると感じのいい営業スタイル、眼鏡を外すとクールで冷徹な本来の燈子と演じ分けが凄い。
しかも、眼鏡を外す瞬間と外した後の境目の変化が特に凄い。
同じ人物とは思えない。
話しでも幹也が伽藍の堂で雇われる際に「電話と実際に会った時の雰囲気が違う」と話すが、その表現を見事に演じて見せてくれた。
シリーズを通して毎回感心してしまうことの一つです。
燈子を言語療法士ではないと分かった式は燈子の中に何かを感じたのか、度々訪れる燈子に対して一般の医者では通じない話しをした。
燈子は魔術師だったのだ。織の死を一目見て見抜いた時点で信用に足る発言だったのだろう。
度々訪れる燈子にはぽつりぽつりと話しをしだし、いつしか習慣となっていた。
二重人格の感覚共有が共有された複合個別人格は燈子にとっても得意で大変興味がある話しであった。
燈子は幹也に仕向けられた刺客?というよりかは燈子の魔術や現実では認識できないものの調査?
つまり不思議探偵をしてもらっているのだろう。
燈子も式の特異体質には興味があり訪れていたのだろう。
式の退院退院が迫ったある日の夜。
式はその感覚を共有していた織の死を感じた感覚を感じ取ったのだろう。
人生に意味を見出せず、いずれ見えてしまうであろう死の線とも言える生きながらにして死に触れていくのが恐ろしくなったのだろうか。
また、式は目をつぶそうとする。
そこへ燈子が止めに入る。
なぜそんな自称行為を行うか尋ねると答えはすぐに出た。
その目は魔術師の間では魔眼の一種として有名なものだった。
その名も「直死の魔眼」。
万物のほころびが見ることができるその目は無くすには惜しい代物だと燈子は語る。
しかし、式の中で織が死んで自分の中に開いた穴を埋められずただひたすら今までより一層の孤独に押しつぶされそうになっていた。
他の人から見ればただの駄々っ子に見えるこの孤独による苦しみ。
でも想像してください。もしあなたが人間であった今までの人生から急にモンスターになってしまったら。
自分の中に取り返しのつかない上書きをされた気分。
世界にたった一つしかないものを失った瞬間。
それが今の式の心情。
物語ではあまり描かれていなく、式は特異体質だということなのか大きく荒れることはないが、常人には及びもつかないような感覚が襲ってきているに違いない。
それを一般人に読み解けというのも奈須きのこ氏の活字にかけるどSっぷりが垣間見えます。
そんな式に呆れたのか見放したような態度をとる燈子。
空の境界のキャラクターは親身になることは多々あるが本人の意見をあっさりと尊重する冷徹な一面も持ったキャラクターが多いのも特徴だ。
しかし、燈子は病室に結界を張り、式の心の隙間に入り込もうとする輩(霊)を守護してきた。
式の周りを取り囲んだ嫌な感覚は式の体を乗っ取ろうとした者たちだった。
しかし、例の一部に知恵を使うものが現れた。
そいつは霊体で入れない式の病室に死体の体を借りることで病室に乗り込んできた。
いくらゾンビ化したとはいえ元人間の死体。
歯抜け過ぎだろう!
恐らく死体が運ばれているときにこの死体だという描写があり、タトゥーが入っていたので薬物による副作用で歯が抜けてしまったのかなにかだろう。
乗り込んできた死体と交戦する式は窓ガラスを割り外に飛び出した。
その超人的な身体能力はリハビリをしている人間の動きとは思えない程鮮やかで、飛び出してきた式に対して燈子は「ネコか」と突っ込んだほど。
公式やファンの間でも式と幹也のイメージは「ネコと犬」で今回の作品でも見舞いに度々訪れる幹也を看護師達の間では「子犬くん」と呼ばれている。
まさか身体を借りて乗り込んでくるとは思わなった燈子。
式に責任を取って何とかしろという式に撃退を試みる燈子も手持ちの武器では殺傷には至らず。
式はその時心に誓ったのだろう。
織は死んでしまった。しかし、こんな輩に織の空いた穴を渡すものかと。
式は自分の弱さを捨てることを誓い直死の魔眼を開放する。
武器を持たない式は指でゾンビとかした死者に挑むも指の耐久力では死の線を上手く切れない。
そんな式に燈子はナイフを渡す。
このナイフがのちのシリーズで式のトレードマークとなるナイフだ。
ところで燈子さん…なんでナイフは持ってるの!?
魔術の持ち合わせもっとこうよと思いつつきっと何か不都合があったのだろう。
例えば物を必要としない魔法使いだったなら道具は必要ないけど、魔術師だから物体として必要で荷物になるからかな?
じゃあなんでナイフは丁度もってるの!?きっと式に目の使い方を教えるために!?
式はナイフを受け取るとその昏睡状態中に伸びた髪をそのナイフで切り落とした。
ここからは式の独壇場。直死の魔眼を受け入れた式にとってゾンビなどカカシ同然。
ばっさばっさと掻っ捌き身動きが取れないようにする。
仕留めたかに見えたゾンビだが、元々は霊体。
病室の外であれば結界もなく難なく式の空いた穴に侵入することに成功してしまう。
だが式は第三章で浅上藤野の病気のみ殺した芸当同様自分の中に入り込んだ霊体に体を奪われる前に自分の体を刺し仕留めるという芸当をやってのける。
こうして自分の弱い心に勝利する式だが織の心を守る以外に生きがいを見出せない式は燈子に魔眼の使い方を教わる代わりに自分を手足のように自由に使って良いと提案をする。
こうして式は退院し「伽藍の堂」の一員となる。
まとめ
こんなにも弱々しい式を拝めるのは本作だけでしょう。
どんな時も虚無で何かを悟ったような式は大抵のことは驚きはしてもあれ程怯える姿を見せることはないです。
また式の長髪を見れるのも本作ならでは、それだけ式にとって重要で分岐点となるお話しになっています。
前述にも述べたがとにかく蒼崎燈子役の本田貴子さんの演技は素晴らしい。アニメの声優ってこんなに凄いんだとしみじみ実感できる。
第一章「俯瞰風景」は巫条霧江。第三章「痛覚残留」では浅上藤野。そして本作第四章「伽藍の洞」ではついに式の覚醒の瞬間が訪れました。
彼女たちが何故覚醒したのか。
それはまだこの章でもわかりませんが、彼女たちに共通した項目として起源が「虚無」ということ。
生きている実感がない者たち到達した次元はいずれも殺人衝動により生きている実感や快楽などを感じるものたちばかりだ。
そんな異常者達の覚醒が出そろいつつ、平穏な毎日に引き返せなくなった式の物語はやっと半分です。
今後、式や幹也の動向は?他の異常者もの登場するのか?殺人衝動のはてにどんな結末が待ち構えているのか。
本作は病院の敷地内での出来事がほとんどで、静かですがその閉鎖的空間がおどろおどろしく描かれています。
それでは次もね~