テアトル新宿で空の境界10周年メモリアル上映会に行ってきました。
今回は物語全体の関連性が深くなる登場人物が登場し事件の一部へ足を踏み入れる第三章「痛覚残留」の紹介です。
第三章「痛覚残留」
第三章痛覚残留はある悲痛だが痛みを感じない無痛状態の少女の話しです。
1998年7月
第一章「俯瞰風景」より2か月前の話し。
その少女は群がる男達からの暴行に抵抗するでもなく、だが何処か男達に対する恐怖は感じていない。
何故ここまで私は何ともなくいられるんだろうと不思議な表情をうかべる。
そんな澄ました彼女に退屈さを感じた男達は何とか彼女の反応が楽しめるようにと試行錯誤するのである。
奈須きのこ氏が感じるいじめや暴行の加害者像は10年以上も前の作品にも関わらず現代日本でも未だ同じような問題を抱えている。
加害者は標的の面白いまでのオーバーリアクションや反応、中には怯える表情に高揚する人間もいる。
話しは少し逸れるがリアクション芸でお馴染み出川哲朗さんはいじられまくり、リアクションでお茶の間を元気にしてくれる凄い芸人さんです。
しかし、その根本にはそんな半ば現実ではいじめのような扱いに対してのリアクションを楽しむという意味であればリアクション芸が人気の背景にはそういったことで喜ぶ、高揚する人間がどれだけいるかが垣間見えます。
人によってはもし敏感な人やいじめの経験がある人にとっては嫌悪感すら抱く人がいると思います。
話しを戻すとある男がバットを持ち思いっきり少女の背中めがけてバットを振り下ろす。
すると彼女はそれまでと全く違う反応を示したのです。
顔を歪めて息を殺し悶えたのです。
面白いそう感じたのでしょう。男は今度ナイフを取り出し少女めがけて振り下ろしたのでした。
少女の名前は「浅上藤野」。両方名字みたいですね。
彼女はある雨の夜、お腹を抱えてうずくまっているのを黒桐幹也が発見します。
彼女に声をかけた幹也は彼女を自分のアパートまで案内します。
作中でも幹也のアパートの登場シーンは珍しく普段は式の家に通っている描写が多いため住処があるのかも怪しいのですが、一応あります。
こいつ何でも見つけて拾ってくるな!
私は小さい時道端に落ちてるもの何でも拾ってたので両親に何でも拾うんじゃないと怒られたものですが、幹也は優しさとその人を警戒させないある意味詐欺師にでもなれるような物腰のため、みんな心を開いちゃうんでしょうね。
藤野はお腹を抱えしかし幹也の問いには首を振り痛くないと伝える。
藤野は昔から無痛の自覚症状すら感じていたのか怪しいが痛みというものを感じない自分は異端だという思いが怪我をしても痛くないのに痛いと人に伝えることができなかった。
藤野の思考がいつもの思考をよぎるが幹也になら伝えても大丈夫だと思ったのか「私痛くて泣いてしまいそうです。泣いても良いですか?」と自ら訴える。
実は幹也と藤野は中学校の体育祭で出会っており足の怪我を負った藤野はやはり友人に痛いとは伝えられずにいたところ幹也に声をかけられ無痛症を知らない幹也であったが藤野は我慢しているものだと思いこのように伝える。
「痛いなら痛いと言えばいい。痛みは耐えるものじゃない。痛みは訴えるもの。」だと伝える。
それが心にあり幹也だとわかったから伝えたのかこの時の藤野の痛みは身体ではなく心で痛いと感じたら訴えたのだと感じた。
その後幹也の家でシャワーを浴びて床に着いた藤野は次の日朝姿を眩ましてしまう。
藤野は向かう先で次々と藤野に暴行を加えたメンバーの仲間を次々と殺していく。
それも魔的に。
藤野と接触したものはたちまち身体があらぬ方向に捻れ曲がり絶命していった。
彼女の起源は「虚無」。彼女は幼いころから「歪曲」という物が曲げられる能力を持っていた。
つまり幼いころからユリゲラーのようにスプーン曲げなどがマジックではなく念動力で行えたのです。
しかし起源が覚醒した彼女はスプーンのようなマジックかもと疑われるような範疇ではなく対象の強度は関係なく捻じ曲げてしまう能力に目覚めてしまったのだ。
浅上藤野の父親は一連の事件を見て被害者の死体の状態からすぐに藤野の仕業だという結論に行き着いた。
それだけ藤野の能力は特異で他に例がないからである。
そして藤野の父親は伽藍の堂に「浅上藤野の保護、または殺害」を依頼する。
これ以上の娘の過ちと浅上家の面子を保つためだろうか。いいや違う。
ここで私は一つの疑問を持った。
藤野は起源覚醒をしなければ普通のユリゲラー並みにスプーンを曲げられる能力しかないと父親も気づいているはずなのだ。
きっと藤野の父は理由を付けて藤野を亡き者にしたかったのだろう。
藤野は親友である「黒桐鮮花」にある人物の捜索を相談していた。
黒桐と聞くと聞き覚えがあるでしょう。
そうです。鮮花は幹也の妹にあたります。鮮花は藤野と同じ女学院に通っている。
幹也は橙子や式、妹すら認める「探し物」の天才であり、その兄に相談を持ちかけるためカフェで待ち合わせをしていた。
捜索している人物は暴行を受けた際に能力に目覚めた藤野が殺害したメンバーの唯一の生き残りの男か、もしくは鮮花が言っていた「憧れの先輩もみつかるといいわね」は「も」と言っていたので逃亡者と憧れの先輩はおそらく幹也であろう。
藤野は体育祭で幹也に声をかけられて以来、幹也に好意を持っていたのである。
第一章の巫条霧絵といい変な縁で好意を持たれることが多い幹也くん。
今から現れるのはその幹也くんともつゆ知らず。
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だが二人の目の前に現れたのは式だった。
式は鮮花に「幹也は用事で来られないってさ。お前すっぽかされたぞ。」と告げる。
鮮花と式は面識があり鮮花は式をライバル視している。それも恋敵として。
鮮花は兄である黒桐幹也を兄弟でありながら心のそこから愛してしまっているのである。
…幹也くんさー何も言うまい。本当にモテる男は兄弟とか魔的とか関係ないのだろう。
グローバルどころか精神世界やあの世でもモテてしまうだろう。
式は意外と鮮花とは絡みじゃれ合うので嫌いではないようである。
そんな言い合いの最中、式は藤野を見て「お前痛くないのかと呟く」。
式の直死の魔眼は藤野の何かを捉えそう告げるが「お前じゃない」と一言その場を立ち去る。
式は燈子から浅上藤野の「保護・殺害」を依頼されている際に写真がなきゃわからなかろうと資料を渡されるたのですが「いいそいつは俺と同類だ。だから出会った瞬間に殺しあう。」と。
目の前がそうじゃないんかーーーい!
式さん取り逃がしてますよ!
突っ込みましたがそういうことではないのでしょう。
この時点で浅上藤野は式と同類ではなかったのです。それに式も写真を見て判断ではなく、浅上藤野が本当に殺戮者なのかを確かめたかったのでしょう。
今回の事件で式の考えは暴行をした人々の殺人は理由がある、だがそれ以上は殺戮。無意味な殺人を式は許せないという。
式は第二章「殺人考察(前)」で語った殺人衝動があるという話す。
その答えはおそらく「殺人衝動があり殺したいけど、意味のない殺人(殺戮)はしない」という線引きがあるのだろう。
だから殺戮犯なら対峙したのだろう。
藤野はそんな式を見て「私あの人嫌いです。」と言い放つ。
お嬢様で本来、暴行の加害者にすら温厚な物言いの藤野がここまで嫌悪感を示すのはおそらく、同じ魔眼を持つもの同士だからであろう。
同族嫌悪というやつだ。
たよりの幹也はその場に現れなかったため単独で捜索を続ける藤野は人探しの情報集めのため遂に首謀者以外の人物まで殺害してしまう。
そんな藤野の元へ式が現れる。そこで式は藤野のことを被害者としてだけではなく、既に殺人快楽者だという。
意味のない殺人に手を出しそれを楽しんでいる様を見て同類と判断したのか式は藤野を始末することにした。
ぶつかり合う二人っとその刹那、二人の間に衝撃が走る!
二人の魔眼同士が何かに反応したのか磁石の同じS極とS極が反発しあった。
その場で対峙する理由がないと判断したのか式は「白けた」と言い残しその場を去った。
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幹也は用事のためにある土地を訪れることになる。皮肉にも相談をすっぽかした浅上藤野の件でだ。
理由は伽藍の堂に舞い込んだ依頼のためである。
その依頼内容とは燈子が式に仕事依頼した「浅上藤野の保護、または殺害」の件である。
それを聞きまた浅上藤野の写真を確認する幹也はあの雨の日の少女であると認識する。
また彼女の生い立ちや境遇を聞き助けたいと思うのが僕らの幹也くんです。
藤野への暴行メンバーの一人に接触して話しを聞き、自己満足のために藤野にひどい仕打ちした上に助けを求め、幹也の口調に安心してベラベラとしゃべるそいつに対して流石の幹也も嫌悪感をあらわにする。
「君、ちょっと黙らないか」
殺害ではなく彼女を助けたい幹也ですが、橙子は既に式に今回の依頼をしており、二人が出会うのは時間の問題である。
式自身も依頼を受けた際に写真は受け取らず「そいつは俺と同類だ。だから出会った瞬間殺しあう。」と宣言しているため、それまでに何としても助ける手立てを探さなければならない。
その為幹也は鮮花の待ち合わせを断ってでも調査に踏み切った。
探し物の天才であれ幹也は藤野身辺調査よりも藤野自身を探したほうが良かっただろう。
浅上家の屋敷跡に訪れた幹也だが村人の浅上家の印象は悪く、浅上に関わるものを煙たがっているようだった。
藤野は幼い頃からスプーンなどを曲げられ、傷を負っても気付かない子でした。
お話しには傷を負って、母親に抱きしめられたことから涙が出てきたとありますが、ここで藤野は泣いたのは痛みのせいではなく。抱きしめられた安堵感に泣いたのだと。
彼女自身の能力により当時通っていた診療所の医者は藤野自身に無痛症など無かったと言うのだ。
転んでは泣きで大変だったとまで言っている。
彼女は恐らく後天的に無痛症になったのだと推察できる。
それは彼女の父親が彼女の物を曲げられる能力を封じるために後天的に無痛症になるようにしたという。
それなのに酷い父親だ。
それでも先天的まるで神から与えられたような力を覚醒した藤野を止める手立ては回りに被害が大きくならないための苦肉の策だったのか。
一人の人間として父親として責任を取ったつもりなのだろう。
私自身、両親から昔こんなことを言ってくれたことがあります。
「世界の誰一人としてあなたに味方しない、耳をかさない、信じてもらえなくなくても、私たちは味方だ。それは相手の言い分が正しくても、どんなに悪いことをしても例外じゃない。」
「それが親だ。世間からどんなに大人扱いされても親にとってお前が大人になることはない。一生私たちの子供だから。なんかあったら言いなさい。」
だから藤野の父親も藤野の味方をして欲しかった。
彼女は一人で考え暴走した。
凄い能力を持っているが彼女はまだ子供だ。
彼女の能力を世間が信用するわけがない。
認知できないからこそ父親は数少ない理解者のはず。
彼女は認知しているが世間が認知されないからこそ彼女を拘束するものはいないと考えただろう。
だから彼女は暴走した。
感覚を得たことで殺人の感覚、快楽にも目覚めてしまった。
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式はそんな藤野が許せなく、藤野の暴走を止めに行った。
浅上藤野と両義式の戦いが始まる。
浅上藤野の物を曲げる能力の念動力には藤野が能力を発動し対象に到達するまで時間差がある。
分かりやすくいうと、捻じる効果がある空気銃などを売っている状態だ。
そのため普通の人に認識することは不可能だが式の直死の魔眼であればそのほころびを認識できる。
しかし実態がないものなのでなかなか実体を掴むことができないため翻弄される式。
そこで式は視界に捉えたものしか曲げられない藤野の特性の死角をつくため暗闇から一気に距離を縮める。
式は藤野の視界に全体を捉えられると全身を捻じ曲げられてしまうため手のひらで全身を捉えられないようにする。
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差し出された左腕はことごとく捻じ曲げられてしまう。
だが式はそんなことは構わずに能力を連発される前に藤野を切り付けも、間一髪藤野に回避されてしまう。
藤野も腕一本を犠牲にして挑みかかってくる式に驚愕するが、同じ手は二度も通じるはずがなく、片方の腕を失ってしまった式に勝機は薄い。
第一章「俯瞰風景」で式が義手だったのはそのためである。
しかし、式もただ逃げ回っていたわけではなく、直死の魔眼で捉えにく藤野の能力のほころびを見極めるために観察を行っていたのである。
浅上藤野の能力は赤と緑の螺旋状。
それを捉えた式は先ほどとは打って変わって容易に藤野の能力を殺していく。
藤野は能力を連発し過ぎて式に観察する機会を与えすぎたのだ。
大谷翔平の160キロのストレートでもそれだけだと目が慣れてきて打たれてしまうのと同じ。
種さえわかってしまえば藤野自身さえ見失わなければなんてことはない。
信じられない現象の前で藤野はなすすべなくただ能力を連発する。
ここで空の境界のキャッチコピーなどにもなった有名なセリフ。
万物のほころびを捉える直死の魔眼の能力を式自身はこう捉える。
「生きているなら神様だって殺してみせる」
藤野はその場に叩きつけられる。
その向けられたナイフの刃先はあの日暴行受けた時に向けられたものと重なった。
恐怖に震えた藤野の衝動が藤野のさらなる能力覚醒を促す。
藤野の視界は巨大な橋を捉えその全体を捻じ曲げたのだ。
橋は捻じ切れ崩壊する。
橋は崩壊し式は避難、藤野は崩壊の中を墜落していく。
藤野は式から逃れることはできても崩壊の衝撃から逃れるすべもなく地面に打ち付けられた。
逃走を試みる藤野だが当然動けるはずもなく薄れゆく意識の中で朦朧とする。
その頃、幹也は調査を藤野の身辺調査を引き上げ燈子と共に式と藤野が対峙する現場に向かう車中であった。
藤野を助けたい幹也に燈子は衝撃の事実を伝える。
藤野は冒頭ナイフで刺され腹部を抑え痛みを訴えていたが実は刺されてなどいなかったのだ。
普通の人であれば痛い⇒血が流れている⇒自分は傷を負ったと感じるが藤野は違った。
藤野は傷を負っていなくても痛くなった瞬間に感じたものが痛み
藤野は自ら痛みを求めさまよっていた。
それは暴行される際ナイフ切り付けられたと錯覚していた。
刺される瞬間に危険察知したのか無痛症が治り能力が覚醒したのだ。
じゃあなぜ藤野は痛みを感じていたのか。
それは浅上藤野が「腹膜炎」を患っていたためだ。
ナイフの痛みだと思っていたものは腹部の病気で以前は無痛症のせいで発見すらされなかったのである。
腹膜炎は進行していて一歩一歩藤野を死の淵に追いやっていた。
燈子さんいわく手遅れだと。
そんな藤野を見下ろし式はあの時の幹也に重なる。
「痛いなら痛いって言えばよかっただ。お前は。」
そういい式は藤野を殺した。
燈子と幹也が橋に到着したときすでに橋は崩落していた。
崩落の中から式が戻り、駆け寄る幹也にこう告げる。
「あいつ直前になって無痛症に戻りやがった。だから腹の病気だけ殺してきた。今ならまだ間に合うかもしれないぜ。」
式は藤野ではなく藤野の中に潜む腹膜炎だけ殺したのだ。
医者になったら無敵ですね。
少なくとも悪い細胞系の手術は完璧ですね。
癌が治せるなんて…
まとめ
第三章は第一章の2ヶ月前のお話し第一章に繋がる物語として重要な意味を持っています。
第三章の心の問題は非常に現実味があり陰湿な物語です。
あまりにもリアルなので人によって物凄い嫌悪感を表し、不快に思う人も多いと思います。
しかし、リアルを描くことで圧倒的に訴えるものの説得力があります。
今回は奈須きのこ氏自身の直死の魔眼に対する考え方が明らかになります。
世界に見えないけど確実に存在するもの、それを活字の力で、ufotableは映像でみせてくれました。
物語に大きく動きは見せないものの世界観を知るために大変重要な作品となっています。
一服落ち着くには不向きな章ですけどね。個人的には能登麻美子ファンなら見るべき!ぞくぞくしちゃいます!
それでは次もね~